リラックスチェアーに腰かけると、妖精さんが羽をふわりと揺らして、あなたの肩のそばに降りてきました。
「ずっと不思議に思っているんだ」
あなたは川を見つめたまま言いました。
「心が繋がっていることが大事、それだけのことなのに、どうして人は、わざわざ難しく考えるんだろう」
妖精さんは、すぐには答えず、川を眺めていました。
「なんでだろうね」
あなたは、小さくため息をついて、川面を見つめました。
妖精さんも、何も言わず、同じ川面を見つめています。
しばらくして、あなたは静かに言いました。
「僕は、今回の生でうまくいかなくても、生まれ変わって、何度でもやり直せるって考えてるんだ。時間は、永遠にあるんだ」
川は、始まりも終わりも見せずに、ゆったりと流れています。
「僕は僕の仕事を、ただするだけさ。それがいい仕事なら、いつかどこかで、いい結果になるんだと思ってる」
妖精さんは、うなずきました。
「うん。そうだね。いつかどこかで、か。その『いつか』が、永遠にあるんだもんね」
「うん。僕の祈りが善きものならば、きっと、いつかどこかで、善きことになるんだ」
「うん。きっとね」
「仏様と心が繋がっていれば、難しく考えなくても、それができるのさ」
「うん。そうだね」
川は、ゆったりと流れています。
菩提樹の葉が、さわさわと鳴っています。
あなたは、川を見つめたまま、妖精さんに聞きました。
「ハーブティー、何にしようかな」
妖精さんは、羽をふわりと揺らして、少し考えました。
「カモミールがいいな。菩提樹の葉が揺れる音に、よく合うよ」
あなたは、ハーブティーのカップを手に、川を見つめていました。カモミールの湯気が、夕暮れの空気にやわらかくほどけていきます。
大河は、夕暮れの光を受けて、ゆったりと流れています。空は、薄い金色から、淡い朱、そして静かな藍へと、少しずつ色を移していきます。水面はそのすべてを映して、川全体が、ひとつの大きな空のようです。
対岸は、霞のなかにやわらかく溶けて、どこまでが岸で、どこからが空なのか、よく分かりません。遠くの木々が、墨を薄めたような影になって並んでいます。
水面には、木の葉が一枚、また一枚と浮かんでは、音もなく遠くへ運ばれていきます。通り過ぎたあとには、細い波紋が広がって、やがて、何もなかったように消えていきます。
川は、急ぐことなく、どこから来たのかも、どこへ行くのかも見せません。ただ、ずっと昔からそうしてきたように、ゆったりと流れています。
川の水は、ひとときも同じ場所にとどまりません。さっき見ていた水は、もう遠くへ行ってしまいました。いま目の前を流れているのは、新しい水です。それでも川は、ずっとそこにあるように見えます。
あなたは、川面に浮かぶ一枚の木の葉を、目で追います。
木の葉は、ゆらゆらと揺れながら、水の流れに身をまかせています。くるりと小さく回って、細い波紋をひとつ残し、ゆっくりと遠ざかっていきます。
目で追ううちに、木の葉は少しずつ小さくなって、夕暮れの光の中に、やがて見分けがつかなくなりました。
木の葉が流れても、風が吹いても、川はただ流れて止まることはありません。
川面を見つめるあなたの隣で、妖精さんも、黙って同じ流れを見ています。
あなたは、川を見つめたまま、妖精さんに聞きました。
「心は、木の葉なんだろうか。それとも、川の流れなんだろうか」
妖精さんは、すぐには答えませんでした。
木の葉が一枚、ゆっくりと流れていくのを、目で追っています。
「うーん……。どっちなんだろうね」
あなたは、川を見つめたまま、ぽつりと言いました。
「木の葉は、流れていくものだよね。浮かんで、運ばれて、見えなくなる」
妖精さんは、うなずきました。
「うん」
あなたは、少し間をおいて、続けました。
「考え事は、漂う木の葉のようだ。でも、木の葉を運んでいるのは、川なんだよね」
妖精さんは、何も言わず、川面を見つめています。木の葉が一枚、また浮かんで、ゆっくりと遠ざかっていきます。
あなたは、川を見つめたまま、静かに言いました。
「木の葉を動かしているのは、川なんだ。川はただ流れ、木の葉は流れに任せて動いているだけなのさ。
考え事は、自分でしているようで、木の葉と同じなんだ。自分なんて、ないんだよ」
妖精さんは、うなずきました。
「うん」
「ただ翻弄されて流されていくんだ。難しく考えても、どうなるかはわからない。
でも、自分が木の葉だ、ということに気づくことはできる。
自分でどうにかできるのは、どんな木の葉でいるか、ってことだけなのさ」
妖精さんは、うなずきました。
「うん」
「だから、僕は、僕の仕事を、できればより善く、するだけなのさ」
あなたは、少し間をおいて、静かに続けました。
「より善くなんて、考えてできることじゃないんだけどね。
仏様と心が繋がっていれば、できるのさ。
だから、祈り続けているんだ。
川は流れていくけど、それだけはできる」
妖精さんは、うなずきました。
「うん」
さて、夕暮れになって、風が冷たくなり始めました。
そろそろ、お家に帰りましょうか。あなたは、空になったカップを手に、リラックスチェアーから立ち上がりました。
夕暮れの川は、ゆったりと流れています。
菩提樹の葉が、さわさわと鳴っています。
木陰の妖精さんと、またお話ししました
何かの役に立つとかでなく、この時間は、やっぱり気持ちいいのです
